いなくなったきみを/寒雪
 


春になると
桜の木の下で舞い上がる花びらを見ながら
ぼくに笑いかけるきみ
小川のせせらぎを聴きながら
無邪気に冷たい水をすくいあげるきみ
教壇の目の前に座って
熱心に授業を受けるきみ


歩道橋を歩くきみ
電車で寝てしまうきみ
バーゲンセールに突撃するきみ


ふと目を向けると
残像みたいに
色々な場所に現れては消えていく
まるで幽霊みたいだね
たぶんきみは笑うだろう
くだらないジョークだと自分でも思うよ


見る者がいなくても花びらは散っていく
水の流れはいつまでも絶えることなく
日常のありふれた光景は
毎日のように
寄せては返す漣のように繰り返していく
そんなこと当たり前のことだと思っていた


なのに傍らにきみがいない
それだけで
こんなにもたくさんの思い出が
ぼくの目の前に浮かんでくる
それを感じるたび涙が瞳ににじむ
初めて気がついたよ
きみはぼくの心の一部だったということを

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