迷羊/岡村明子
 
書く端から
言葉がもろい陶器になって
ぱりんぱりん割れていくので
どんなに壁にしがみついても
もう書けないのです
コンクリートは湿ったにおい
かび臭い指先から滴るインクでは記号にならない
嵐のように桜が過ぎ
壁じゅうに花びらを撒き散らしたあとで
私は何を書けたというのでしょうか
ものすごい速さで移動する雲の群れの中で
どういうわけか迷ってしまった一片の雲の気持ちです


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