七夕/佐野権太
娘たちは
もう眠ってしまった
何も書かれていない短冊がひとつ
テーブルに置かれている
なあ、父さんは
こってり疲れてしまっているから
願いごとなんて
ひとつも浮かばないんだ
静かに網戸を引くと
よりかかっていた笹の葉が
しゃらしゃら
心地のよい音色にひるがえる
おれんじの短冊
(まじしゃんになれますように
縁側に座り
缶ビールのプルトップを引く
湿った風に重心を失っている
みずいろの短冊
(おとうさんがはやくかえってきますように
雲の多い空の隙間
星を探しながら
ひとり
風のゆくえを探している
戻る 編 削 Point(10)