会話で起きたこと/プテラノドン
 
少年が、
サッカーボールを入れたネットを蹴りながら歩くように、
缶ビールを蹴りがら歩いた。だから、
「振り回したからじゃなくて、蹴っ飛ばして飛んでったんだ」と彼は言った。
そして僕は今、満員電車の釣り革につかまりながら、床に転がっていた
潰れた空き缶から流れでる液体の行方をぼんやり見ていた。
野球ナイターの帰り道であろうカップルを見てはっとした。
今朝、母親から聞いた親戚の女の子の話を思い出した。
スチュワーデスをしている彼女は僕より三つ年下の女の子で、
海外を行き来する合間に、父の日に、二人で見に行くための野球の
ペアチケットをプレゼントした。その時、父親がどんな表情をしたか?
どんなアホでも想像つくだろう?父親の兄弟が倒れて緊急入院して、
野球観戦どころではなくなってしまった、その時の二人の表情も。
病院の待合室か病室で、「どっちが勝ったのかな?」などと
小声で会話しているかもしれない。もちろんそれは
列車の車内であっても構わない。けれど、試合結果なんて
どうだっていいんだよ。

戻る   Point(2)