在る/因子
 
その手に触れたら
現実がずれた






街に潜らないと独りになれない
名前と顔のないものが適当数、ほら
いま地に足が着いている

そろそろ去っていきそうな虚像
昨日のひとの横顔を
ほんとうは見ていないのに



美しいあごのラインを辿ると
鼻の奥でなにか、貴いものが焼け焦げていく
寺院や木像が煙をあげている
そういうものがねばついている


ひどく深みにあるものが
私の皮膚へと浮き出てくる

重力をねじ曲げる凶暴なうつくしさ
それは刹那的な、しかしだれかが切り取った


どこかへ走り去ってしまうものを、
ことばで以てすこしでもここへ留めておけるのではないかと
うまく処理することができるのではないかと
あるいは虚像の、さらに虚像でも、此方へ、


私はその向こうのひとを「うつくしい」と言う
これがただ、じかに声に出来る敬意です



ほんとうは
なにひとつ見ていないのに
もう去ってしまいそうな虚像
だけど私はやさしい人だと思ってる
戻る   Point(3)