都市風景(21〜40)/草野春心
 
く西風の臭い
  三月は
  果実と幻想の臭い
  六月は
  くりかえすことの臭い

  36.

  彼がやっている仕事は
  時代のゲームの
  ルールブックを書く仕事
  仕事をしていない時はルールブックを読んでいる

  37.

  うすぐらい水の底にずっと沈んでいた
  一対の目が見てきたものを
  僕は書き写す

  38.

  誰かの膝枕で耳を掻いてもらいながら
  一生を終えたいと思うこともある

  39.

  名前を持つのは僕だって怖い
  世界じゅうのすべてに
  モザイクや音声加工を施してしまいたい
  名前を持つのは誰だって怖い

  40.

  僕の中に
  僕という言葉で呼べない何かがあり
  誰かの中に
  僕という言葉で呼べる何かがある
  その何かが僕を生かしているのだろうか



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