糸電話/天野茂典
 


 いちまいの鴉
 が飛んでゆくのは
 ふるさとだ
 紙切れのように
 空気を裂いて
 熱いおもいを抱き
 鉄橋を越えるのだ
 それでも新幹線にはかなわない
 遅れてゆくばかりだ
 ふるさととはどこか
 ふるさとになにがあるか
 枯枝ばかりかもしれないじゃないか
 いちまいの鴉
 色紙ももたないで
 携帯電話もつかわずに
 渡ってゆく
 ポケモンのことばも分からず
 苦い舌を湿らせて
 繊毛のような
 シダ類の明るさを
 堕ちることもなく
 美しい容姿でもなく
 やがては現れるだろう
 海峡の白波
 荒れた気流を躱しながら
 だんだんと
 
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