家族島/小川 葉
もわかるように説明した
そのあいだにも私は櫂を漕ぎつづけた
どこに向かって漕ぐべきかは知っていたけれど
そこが必ずしも正しい行き先ではないことも知っていた
きっと妻も知っていたと思う
息子には今この時を大切に覚えていてほしい
声をあげて息子が指さすその先に
無人島がある
あの島で暮らそう
もうどこにも行かなくていい
私たちしかいないその島を
家族島と名づけることにした
心に刻まれていく思い出を
いつか思い出すことがあるだろう
家が海で満たされているかぎり
真夜中帰宅した私は
玄関の戸を閉めながら
ほんの一瞬
そんな夢を見ていた
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