見知らぬ人へのラブレター 〜桜の手前〜/はらだよしひろ
 
まま、僕は(  )さんの瞳が優しく潤んでいるのを心の中に留めるのです。

 僕は(  )さんの身体を知りません。でも、僕のボールペンを握る手は既に熱く、それで火照った(  )さんを想うのです。
もう、既に(  )さんは知っていらっしゃいます。僕の足が地に着いている事を。それはもう、この手紙を(  )さんが読んだ時からわかっているのです。

恋人はいますか? 僕は知っているのです。人は想いを馳せることが出来るのを。
僕にはいます。心の中に(  )さんが僕と手を繋いで歩いているのです。
遠い遠い(  )さんはあどけない肌黒さを僕に向けて少し怒っています。
「もう少し、わたしを見てよ。」
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