トンボ/やや
 
シュガーコートされた沈黙が、幾重にも重なる
通りはまだ
騒ぎ出すことを知らない
カーテンが染めた光
部屋はまだ埃っぽく
朝が染み渡っていない

寝床は生暖かく
体は必ず汗ばんで
意識は重く枕に沈んで
くしゃくしゃのシーツが
時間と身体を
きれいに切り分けている

町のどこかから
小さく鉄琴の
赤トンボが流れ出す
呼応して
あちら
こちらから
トンボが生まれる
空に向かって羽音を立てずに飛ぶ
まだ1日は始まったばかり

ゆっくりと伸びる赤トンボ
静寂はうっすらと溶けていく

安寧な意識に入るひび
時間と身体が入り混ざる瞬間
後から追う倦怠感

今日こそは捕まえないといけなかったのに
どんなに急いでも
ふんわり家を飛び越えて
私はまた
自分のトンボを
見つけることが出来ない
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