宇宙/山中 烏流
 

いつかのことを思い出す
首の下で脈打つ、ひとの腕を
愛しく思っていた頃のこと

わたしが寝返りをし過ぎたせいで
よく眠れなかった、と
そのひとは
苦笑いで言いながら
私の頭に
手を、伸ばしたりした


似通ったラブ・ソングを
いくつも聞いては、その度に涙できるほど
空っぽではなかったから

毛布の重さを頼って眠るわたしを
二目、見ようとするひとは
現れなかったのだろう
そんな、気がしている


外を走るバイクの音が
ゆっくりと、少しずつ遠ざかっていく
他人のことを考えられるほど
余裕のあるひとであったならば
この、一瞬の静けさに
まどろむことも
可能なのだろうか

鳥の声がうるさくて
カーテンに映る染みが
少し
濃くなったのを見る
そこを離れたら何処に行くのか、と
問いかけた声で
染みは消えてしまった
羽ばたきの音だけが
そこに
置き去りになって


呼吸の音が、重なる

酷く
うるさい




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