椿/izumi
2月の終わり。
玄関を出てプランターの向こうに椿がある。
木に春で椿。
もうすぐ春がやってくることを知っている。
まだまだ硬いつぼみが濃い緑の葉と共に揺れている。
冷たい雨風にさらされるのをずいぶん前から知っている。
ふと見上げると上品または可憐か艶やかか
声をかけるのに勇気のいる一輪の赤い椿が咲いている。
きっと知っているだろう。
この瞬間私が最も美しいことを。
そして最初に美しく世界を去ることも。
それは人間を魅了するほど愛らしい。
寒ければ寒いほどその美は高揚し人間の足を止める。
自らの美
愛に陰りが現れるまで。
朝新聞を取りに外へ出るとその椿は
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