モラトリアム/寒雪
 


寒空の下
ベランダに出て
少し薄暗い星空を見つめる
ネオンのせいかかすれて見える星たち
もしかすると
この中に今
命数を使い果たした
悲しい星があるのだろうか


ぼくはたぶん
目を合わせたくなかったんだろう
台所のシンクに見つけてしまった
もがきながら逃げ惑うゴキブリの
例えようのない気持ち悪さを
自分の背後に感じているから


さっきまではまだ
分かる様な言葉を呟いていたきみが
今はもう意識もなく
体を時折痙攣させながら
まるで芋虫のように蠢いている
助けられるなら助けたかった
今はただ
自分の無力さに絶望し脱力し
そして
きみの命が尽きる瞬間を待っている


ぼくの目の前で
車に轢かれたねこは
一瞬にして生き物からただの物になった
そんなもんだろうと思った
でも
今のきみは
そのままぼくよりも長生きしてしまうのでは
と思うくらいで
来てほしくないという気持ちと
早く楽になりたいと思う気持ちで
自分の感情がもつれ合う


その時
ぼくの目からは
涙が流れるだろうか

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