翠雨/夏嶋 真子
 
 ぼくはまだいちご泥棒と眠りたい置き忘れたものばかりの園で
 衝動を積み上げていく指先に梶井のレモンわたしのオレンジ
 気だるさはインクに滲み水底の青い散文髪に絡まる
 紫陽花に傘をさし出す君の手に蝸牛ゆき軌跡が光る
 あお、みどり、むらさき、翡翠、リラ、群青、水色、そして虹の水無月
 ストロベリーチュパチャップス棒が抜けぽっかり胸に穴が空いたの
 夕暮れを飼い慣らせない青い瞳(め)の子猫は獅子の狩りをまねして
 静謐は音色を帯びて湖に波紋の廃墟月光ソナタ
 堆く積み上げた夜に星落ちて海辺の鴉の銀の嘴
 残月を描くレールのカーブから壊れはじめた夜の残響
 カーテンを開ければ朝の光さす輪廻の糸で編まれた繭に
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