炭酸水と夏の気配/小川 葉
 
 
 
泡がうまれ
浮かんでいって
はじけて消える
泡が泡として存在した
一瞬のいのちが
空中へ放たれてゆく

窓のそと
にゅうどうぐも
夕立がくる
ひとり
またひとりと
雨粒が窓をたたく

気が抜けた炭酸水の
コップの底に
泡がひとり
まだ死にたくないと
言うのが聞こえた

翌朝
泡はいなかったが
この夏空のどこかに
いるのはたしかだ
今日も暑い
それは夏が好きだった
あの人の気配
かもしれなくて
すこしうれしい
 
 
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