箱/ふるる
まっくらだったのに
その男は普通に部屋に入ってきて
箱を置いていった
その大きさは幻聴に悩む私の音域ほどもあり
身震いする
いく日もほっておいたお風呂の水を
ざぶとかけられた気分
隣に寝ている夫の鼻をつまんでみる
寝ぼけた犬ほどの返事もない
あれあなたの箱でしょう
あんなに大きくて空っぽよ
ううん、うるさいな、ちゃんとゴミに出しとけよ
だってあんなの危ないわ
近所の子が中に入って閉じ込められでもしたら
近所の奥さんが中に入って出てこれなくなりでもしたら
それからしばらくまんじりともせずいたけれど
私は抗いがたく
箱のふちに手をかけて
寝巻きのまま
黄色のお財布も持たずに
そこに入り
まっくらだったのに
その男は普通に部屋に入ってきて
箱を持って行った
夜明け前なので
妻の失踪届けを出すにはまだ
早い
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