都合のいい人間/izumi
 
いつかは消える。記憶も、言葉も。

記憶は深い霧の中へ。言葉は風に飛ばされて。

手を伸ばしても届かない。
どれだけ走っても追いつけない。
そしていつかは、消えたことも忘れてしまう。
必死に探していたことも。

だから、人間は生きていられる。

すべてを覚えている人には、この世はとても生きづらい。
見たこと聞いたこと五感を通して入って来るすべての情報が
ある時あなたを苦しめるから。
じわじわと。知らないうちに。

気付いたときは、もう遅い。
あなたはすべてを知り、それを理解してしまった。

記憶も、言葉も、あなたに、私に、
必要な分だけ持っていたらいい。
それ以上は望まない。望まない方が身のためだ。

また、どこかへ行ってしまった。
なくした直後は悲しいが、必要になったら戻って来るさ。

人間はそうやってうまく生きてる。

都合がいいのさ。
だって、その方が幸せだから。

10.2.16


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