奥鳥羽の秋/たかぼ
もうこんな窮屈なブラックホールでの生活は嫌だ
と彼は言った
しかし私の手のひらの上にも
本箱の中にも
ブラックホールなどなかった
どうやら彼の言っているのは
ただの黒い穴のことのようだ
ただの黒い穴ならどこにでもある
例えばあなたの瞳だ
あなたの瞳は
ときおり透き通るように黒い青になる
私の瞳には
空の青を映す海を映したあなたの黒い瞳の中の青が
映っている
あなたは海辺で桜貝を耳に当て
私の話など聞こえないふりをしているが
桜貝から聞こえてくるのは
海の子守歌ではなく
私のささやき声なのだ
あなたのピンク色の耳にささやきかける
私のうすみどり色の声・・・
さあ
思い浮かべてみるがいい
そして反芻するのだ
この詩的な秋
この詩的な音に包まれた
落ち葉舞う薄緑色の海辺に散ったピンク色の桜貝の中の
あの懐かしいギラギラとしたイルミネーションの固まりを!
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