辞書をめぐるお話 最終話/たもつ
 
葉がある

今まで書き綴った
どんな言葉よりも

尊い言葉が
胸の中にある

青年は走った
女のもとへ

一番最初にその言葉を
女に聞かせたくて

たった一つの言葉を抱いて
青年は

走った

走った




これで言葉を書き続けた青年のお話はおしまいです
彼の恋の行方はどうなったのでしょうか
彼が最後に見つけた言葉とは何だったのでしょうか
これから先は
皆さんの物語として

すべてのものは変質します
それが時間です
言葉も変ります
時には緩やかに
時には加速度を増して

時々私は思うのです
変らないものもこの世には
あるのではないかと

例えば
いつの世でも

女は
井戸端会議が好きであるということ

男は
スポーツ新聞のようなものが好きであるということ

そしていつの世でも
男と女は

求め合う存在であるということ




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