KAORI/豊原瑞穂
初めてもらった合鍵は、アタシにはどんな物よりも高価に思えて嬉しかった。
今ではただの「馴れ合い」の間柄、あの頃を懐かしむアタシがとても哀しい存在に思えた。
「ガチャ」
今日で最後だと心に決意し、別れの言葉まで用意していたというのに、あなたのいない時間を選んで合鍵を使った。もう何回もあなたとの愛を確かめ、そして疑った空間が広がっていた。
少し散らかった雑誌を整理し、コンビニで買って来たサンドイッチを口にする。あなたの帰りを待つワケでもなく、ただ漠然とその場で時を過ごした。
気が付くと、あなたのベッドの上で眠りに落ちていた。あなたの帰ってくるいつもの時間には、まだ多少の猶予があった。
枕に顔をふせたら、あなたの髪の香りがした。いつもは気にしなかった香りが、沢山の思い出と共に蘇る。
「アタシ、何してんだろ・・・」
流れ出た涙を中指で拭い、用意していた『最後の言葉』を紙に残して部屋を出た。
『抱きしめてくれていた腕の中には、いつも切ない香りがしていたから・・・』
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