うみのさけび/紀ノ川つかさ
 
うみのさけびを
おぼえているものは
だれもいない

いのちはうみから
うまれてきたと
いうのに

いまはただ
くりかえされる
うなばらのおとが
きこえるばかり

うみのさけびが
どんなものなのか
きけるのはずっと
みらいのこと

そのときまで
そんなものがあるとも
おもわない

うみのさけびが
はなたれるとき
たくさんの
ちがながれる

うみのいたみが
たくさんの
きずをつくるからだ
 
でもそのじじつは
あおいうなばらの
そこにしずんでいて

とくべつ
なにごともなかった
かのように
なみがよせてはかえす

いずれ
うみのさけびは
うみのそこから
よみがえる

ひとつのいのちを
ともない

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