呼び名/小川 葉
スーパーにいくと
果物ばかり買ってくる
もう一人
いるみたいに
声はしないのに
それはたしかに
+
骨をのこして
魚はいってしまった
これが最後です
と言うより他のない
皿の上で
たったひとり
生きている
わたしのかわりに
骨だけになって
いってしまった
+
不在票が
とどいている
裏の公園の
桜が散ったのだ
こんなにたくさん
さよならを伝えたくて
春が終わっていたのだ
私がいない時に
+
お父さんと
呼ばれることが
まだ
わからないみたいに
生まれたばかりの
君を見ていた気がする
お母さんと呼ぶと
お母さんは
僕よりも先に
お母さんになっていた
まだ名前のない
君の呼び名を考えながら
お父さん
自分で呼んでみる
不思議だな
呼んだり
呼ばれたりするのって
しあわせって
こういうことなんだな
戻る 編 削 Point(4)