鳩の飛ぶ夜/竜門勇気
 
より早く国営化された。医療費自体は高くなったが、死者は減った。法的には死んでいない眠れる国民が毎年、何万と姿を消していく。
それほど貧しくなければ人間は90年で土に還ることが許されていた。
人は癌とスキゾフレニア症等治癒が難しい病に罹れば場合によれば数千年をまたにかける事を許されるのだ。
いや、例外もいた。大きな権力を持つものや、大きな才能を持った科学者たちもまたひっそりと氷の中へ消えていった。

生命の倫理はどれだけの死を無視してきただろう。
この僕の住む地域では生体間移植を受けられない。
一定の年齢を過ぎていなければ、どんな臓器であれ手術を受けられないのだ。
裕福な人種は、まだそんな規定のない国に赴き金にモノを言わせ臓器を手に入れてきた。
肝臓や腎臓。果てはまだ生きている人から心臓を買い受けたという。
それほど裕福でなければ、それはできない。
それほど貧乏でないだけなら、病名を知ること無く死んでいくそうだ。
いや、例外がある。だがこの例外は言いたくない。
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