ジャクスタポジション/瀬崎 虎彦
 
並走するそれぞれの年齢のわたし
あるわたしは五月にひざをつき
あるわたしは夏にグールドを繰りかえし聴き
あるわたしは秋に同じ言葉にとらわれる

並走するそれぞれの年齢のわたし
あるわたしは地下街を恋人と歩き
あるわたしは名画座で恋人を待ち
あるわたしは改札で恋人と別れる

変わりながら変わらないわからずやのわたしを
誰一人物語として通読することは出来ないのだから
せめてわたしが記憶しておくしかないと思う

それでも記憶からこぼれることは当然あり
それは誰かの記憶にとどまっていることかも知れぬと
姿の見えない鳥の無事を祈るように 思う
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