ゴルフバック/森の猫
 
かからんようになったなぁ」
 ゴルフの前日、いつもよりずっと早く帰宅し風呂から出た秀太郎は、ビールをぷはっと飲みながら、ミサキに向かって言った。ミサキは頭のどこかで、プチッと切れる音が聞こえた。わかってない、いや、変わってないんだこの人は。翌日、いつもの様に夫は明け方からゴルフに出かけ、週明けの月曜またゴルフバックは届く。
 ミサキは金曜の夜、子供たちに早く寝るように促しながら、ちょっとコンビニまで行ってくるねと伝言を残し、愛車を走らせていた。
15分も行くと、桜の名所がある2級河川のT川に着いた。こんなに近くにあるのに、花見に来たこともなかったことに気付いた。後部座席を開けると、あの忌まわしいゴルフバックを取り出した。数メートル下には川面が橋の照明で暗く光って見えた。護岸工事のしっかりしてある転がりのよさそうな場所を選び、ミサキは思いっきりゴルフバックを蹴り倒した。まるで人が落ちたように鈍い音をたて、それは見えなくなった。
 来週はまたゴルフだ。秀太郎が宅配便でバックを出す頃には、ミサキも姿を消そうとネットでビジネスホテルの予約をとった。
戻る   Point(2)