上京/小川 葉
 
 
 
駅前を歩くと
街が
ビルが
私を押しつぶそうとする
私という
正確な座標の
一点を目指して

押しつぶされる
私のそばで
今この街に来たばかりの
かつての
私のような若者が
街を
ビルを
見上げている
ただそれだけで
街が
ビルが
大都会であろうとする

若者は
私に気づかずに
歩いていく
片手に火のついた
煙草を持ったまま
この街が
農村であることを
まだ知らなくていいように

田植えしてる
父に別れを告げて
高層ビルの角を曲がる
その路地裏にある
就職先の
雑居ビルの三階で
若者は田植えを任される
この街が
農村であることを
まだ知らずに
大都会であることを
まだ信じて

駅前を歩くと
街が
ビルが
彼を押しつぶそうとする
彼という
正確な座標の
一点を目指して

農村からこの街へ
来るものはみな
農民となり
農協職員となり
あるいは
役人になっていく

大都会は
もはや農村と
見分けがつかない
 
 
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