宛先のないという名の手紙/クローバー
 
日曜の浜辺を少女が歩くと
海は境を失って
空気のすべてが海になる

宛先のないという名の手紙
インクが海に溶けだして
魚になって泳いでいった。

悲しそうにうつむいて
少女は機械に話します
「電波の届かないところにあるか
 電源が入っていないためつながりません」

海の境にとどまって
迷子になるのは親なしのカモメ
カモメは漂うたましいのかたち
宛先のないという名の手紙の
一番はじめの住人でした

インクの魚が少女をつつく
少女は袖から綴られて
ゆっくり手紙になっていく

宛先のないという名の手紙
宛先のないところに届け

今日は残念、日曜日
郵便屋さんはおやすみです。
だったら、と少女はジャンプして
空気の海に泳ぎ出す。
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