波がことばをもぎとっていく/瀬崎 虎彦
波がことばをもぎとっていく
三週間と三日 高熱が続いた
ロビンソン・クルーソオはふと
自分が黒人になって巨石文明の
栄えたアフリカの奥地で
平和に暮らしていたのではないかと
確信を得る
自分は十八世紀のイギリス人ではなく
船が難破したのはベッドの上で寝返りを打ち損ねただけであり
要するにこれはすべて悪夢で
これまでの苦労はすべて悪夢で
これまでの孤独はすべて悪夢で
孤独から救われたいという浅はかな願いだけが
彼に執拗に物の数を数えさせていたのではないかと
考えるにいたった
波がことばをもぎとっていく
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