騒/イシダユーリ
 

けれど
きみは
触ったら死ぬ
人間なのだから
わたしの
ただひとつの
犯罪は
万引き
ひとけのない
文房具店から
うすい香りの
ついた消しゴムを
盗んだ
だけ
のことに
なり
お堂のすみで
脅える子らの
集まりに
しゃがみこむ
だれもが
はやく
家に帰りたいと
思っていて
けれど
帰りたい家を
もっていなかった
じめじめと
消しゴムを
食べることが
流行った
不味かったけれど
食べられない
ことはなかったから
スカートや
半ズボンを
はいて
ひざこぞうを
みせていた
食べられない
ことはなかったよ
なんだってね
すこしの量ならば
きみは海水
わたしは苔
たとえば
きみのお堂は
なんという名前の町にあるの
そこに行って
しゃがみこめば
きみは
ひとたまりもなく
わたしを
忘れるだろう
そして
海からは
自殺に失敗した人々が
みな
あがってきて
わたしは
わらってしまうだろう
ただ
きみが
田舎の夏にある
唯一の花火のようだった






戻る   Point(8)