騒/イシダユーリ
 



ただ
きみの
ひるがえる肩が
遠い国の祭りのようだった
ただ
きみの
あげる声が
ひばりのはばたきのようだった

きみに
伝えたかった
だけ
なのだと
新宿駅構内の
BECK'S COFFEEで
ふと
思いついた
誰かが
誰かと
一緒にいたこと
など
なかっただろう
人間は
触ったら死ぬ
生き物なのだから
階段をのぼるまえ
逡巡して
 心配だ
 いつも
 きみのことが
 いまは
一行ずつ
嘘になっていく
ただ
きみの
がたつく歯が
つかわれないままに
ひかる矢じりのようだった
ただ
きみの
ざらついた首筋
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