薄く、淡く、確かに。/灯兎
 
わせればそんなのは自分勝手でしかないわ。どうしてその傷を分けあおうとしないの」
 「僕らのほとんどはそこまで強くないんだ。みんな強いふりをしているだけさ。だから傷だけじゃなくて、色んなものを分け与えるのを怖がってしまう」
 そうだ。僕もそんな人間のひとりだ。思い出を分かち合うことができなくて、守るふりをして奪うことしかできない。そんなくだらない人間のひとりだ。けれど、根元に死体が埋まっているから咲ける桜のように、僕も心の深くに思い出を眠らせて、ようやく生きることができているんだろう。
 「ふうん。そういうのって、わからないな」
 「君にはわからなくていい種類のことなんだ」
 こうも夜が鎮
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