影/「Y」
 
ずだ。
 ところが、出来上がったプリントに写った右側のコートには、うつむき加減の人影が、はっきりと写っている。
 幾ら目をこらしても、同じことである。
 結局私は、そこに写っている奇妙な人影を、自身の記憶違いのせいにするしかなかった。
 「それにしても」
 と、私は心の中で呟いた。
 そこにある人影は、どうみても、スポーツに打ち興じている姿ではない。
 むしろ、じっと頭を垂れて、ひたすら何かを思いつめているように、目に映る。

 それから数日のあいだ、私の心の隅には、その奇妙な人影が、古い建物の壁にこびりついた染みのように居座り続け、なかなか消え去ろうとしなかった。

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