「帰る場所を知らない」/ベンジャミン
く
木は自分で自分をしっかり支えて
木は他の小さな生きものたちの命を抱いて
木はやがて朽ち果てる日のことも考えずに
木は生きている
帰ることを忘れても
還ることは意識の中に在る
いつからだろう
もしかしたら
生まれたときからかもしれない
引き返せない道を
走ったり歩いたりして
いつからだろう
帰ることを
帰る場所を
ずっと求めて
生きてきたように思う
そうでなくとも
自然は自然へと
還ってゆくのに
気がついたら
ちゃんと家に帰ってきていた
さっきまで木に触れていたような気がする手で
家のドアをあける
「ただいま」という
僕は少し地面から浮いたような足取りで
日常を過ごしている
根を持たない僕は
生き続けるために
帰る場所を知らないでいい
それが生きていることと等しく思えるなら
帰る場所はいらない}
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