首/小川 葉
また首になりそうだよ
顔のない父が言う
もうとっくに切り落とされた首を
また切り落とされるまで
明日もできるだけ頑張って
働きにいく
もの心つくまで
父の首が玩具だった
閉じたまぶたを開くと
僕は生まれたばかりなのに
懐かしい気がする
景色ばかりが
父の瞳に映っていた
父が夜中に帰ってくる
眠っていた僕は
眠ったふりをして
母と話す父の声を聞いた
保育所の
連絡帳を読んでいる
僕がどんなふうに過ごしたか
ありもしない目で読み
ありもしない首を縦にふって
頷いている
うれしそうに
ありもしない目から
涙までこぼして
また首になりそうだよ
顔のない父を
いっぱい困らせたかった
顔がなくても
見えている
やさしい顔は
僕だけのものだった
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