忘れられたあの日の理科室/朽木 裕
 
魚 魚 死んだ魚
ホルマリンに沈む倦怠

忘れられたあの日の理科室

君、のことが好きだったのかどうか
今となっては分からないけれど
クラスの人気者だった君がどうして

私を好きになってくれたのかな

今と同じなのは長い黒髪だけで
あの頃のように屈託なく笑うことが私には出来るだろうか

転校したくなかったよ
引っ越さなければ君を泣かせることもなかった
男の子が泣くなんて思ってもみなかった
だって守ってくれるんじゃなかったの
泣くほど好きだったなら
隠れて泣いた私のこと守ってほしかったな

セピア色の水にひたされた魚はただ静かに沈んでいた

忍び込んだ理科室で倒しそうになったホルマリン漬けの瓶
息をひそめあったこと、君は覚えているのかな
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