忘れられたあの日の理科室/朽木 裕
魚 魚 死んだ魚
ホルマリンに沈む倦怠
忘れられたあの日の理科室
君、のことが好きだったのかどうか
今となっては分からないけれど
クラスの人気者だった君がどうして
私を好きになってくれたのかな
今と同じなのは長い黒髪だけで
あの頃のように屈託なく笑うことが私には出来るだろうか
転校したくなかったよ
引っ越さなければ君を泣かせることもなかった
男の子が泣くなんて思ってもみなかった
だって守ってくれるんじゃなかったの
泣くほど好きだったなら
隠れて泣いた私のこと守ってほしかったな
セピア色の水にひたされた魚はただ静かに沈んでいた
忍び込んだ理科室で倒しそうになったホルマリン漬けの瓶
息をひそめあったこと、君は覚えているのかな
戻る 編 削 Point(1)