『神戸』エッセイ6500字/アマメ庵
『神戸』
何も伝えていなかった。
だって、彼女は喜ばないかも知れないし、ここの所は電話を掛けてもメールを送っても応答がない。
走りなれた国道2号線。
昨夜の雨が洗った空気。
春色の空が拡がっていた。
付き合っていたころは、浮かれ心地でこの道を走った。
今日は、焦燥。
ハンドルを握る手に汗を感じる。
彼女になんと言おうか、何度も、何度も考える。
考えても、同じことがどうどう巡りで、どこに行き着くこともない。
しかし今日、彼女に会ってしまえば、恐らく一つの結果がもたらされるはずだった。
そしてそれは、ぼくにとってきっと悲しい結果である。
焦らないよう、路線バスの後ろに
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