触ると死ぬぞ/Ohatu
触ると死ぬぞ
みんな、離れろ
そいつに触ると死ぬぞ
少年は少女を半ば背負うように、それでも力強く
南へと歩く。大人たちの愚かしさをいっしんに受けて。
誰かが言う
死ぬぞ、死ぬぞ、死ぬぞ
少年は時々少女に話しかけ、少女は時々応えて
笑う。指が震えているのだ。
テレビか、インターネットか
誰かが言いだした
死ぬぞ、死ぬぞ、死ぬぞ
触ると死ぬぞ
少年には、近づくと後ずさる大人たちはかえって
好都合だった。はじめから助けなど求めてはいない。
死ぬぞ、死ぬぞ、死ぬぞ、と
それにしてもよく喋る屍だ
少年は、一瞥し、あるいは感じ、
無言で、少女を守る。
すでに死んだ者たちが、いつまでも死を
恐れているのを、諦めたように蔑みながら。
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