そして世界/
瀬崎 虎彦
奥歯にものがはさまって
どうにも上手く言えそうにない
借りてきた猫は縁側でずっと
所在無げにぐるりを見渡す
小さい手がとりこぼすものは
その手につかむものの補集合
はじめからなにもないとどこかで
割り切れたら泣かずともよいのに
そして世界
今ひとすじの涙とともに壊れ行く
愛した人を
愛したことを
喪うまでのうるわしき自戒も
時の召すまま
僕は恍惚にさらわれて途方にくれる
今あなたの手に触れる
今あなたの目に映る
世界という名の僕の不在
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