「 オレンジの月の夜 」/椎名
影の中から呼ばれた気がして振り向いた
あれは風の音
それともビルの谷間にこだまする車の音
誰も呼んでなんかいなかった
ましてや
こんな誰も知らない街の中で
そびえたつビルの向こうに
今夜は月が出ているはず
少し大きめのオレンジ色の月
いかにも妖しい光を放ち
人のこころをとらえる
何かが起こりそうで
何も起こりやしないのに
一歩あるくごとに
妖しの世界へ近づくような
まだ昼間のあたたかさを残した
不思議な風が吹くから
そんな幻想の世界へ迷い込みたくなる
歩いては振り返り
歩いては振り返り
本当は
誰かに呼ばれたい気持ちを秘め
わざと影を踏んで進もう
オレンジ色の月にみつからないように
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