lower/イシダユーリ
 

よごす

しようもなく
彼の体や
彼女の横顔を
おもいだすのだけれど
それは
電気のスイッチのように
潔くはなく
けれど
きれていく電池のようには
あいまいでも
ない
だから
たとえば月や
夕陽
そして
うみだされる影を
みて
ひとりごとを言おうとする
けれど
なにも言うことが
思いつかずいると
また
歯が痛み
車が横切っていった

からだを
よごさなかった
泥の粒が
はねる
痛みの点滅が
すこしずつ
よわっていく
おおきな動物が
遠くなる

冬、
とてもあつかった
冬、
彼女が死んでいたとしても
わたしは
それを知らないで
いるだろう

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