遠方人/あをがね
 
動き出した特急が
午後の太陽のように
去り行く僕の影を
ゆっくりと引き伸ばす

まだ知らない場所も
通り過ぎた道のりも
結局ここからは見えないんだ

僕はこの町が
好きで嫌いで
見飽きた残像が
何よりのプレミアで

僕は君のことが
好きで嫌いで
やわらかな笑顔は
無垢な石綿のようで

だから
僕は思い出が
好きで嫌いで
変わりばえのしない僕が
懐かしい残照に
色褪せてしまいそうで

海の向こうより
山のかなたより
宇宙の果てよりも
二度と出会えない事実だけが
何よりも遠いんだから

特急の窓からは
もう何も聞こえなくて
僕の知っていたホームの色を
風が刻々と吹き去っていく
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