青噛む春/水町綜助
告げる
すると乳白色に青縞のバスは煤煙を吹き出し
サークルケイは自動ドアを閉じ
コアラは木から落ち(目が怖い
名前を失ったあのひとは通りの向こうで笑い 車にさえぎられ 連続できない
とある街角にあの夜立ち 明滅のままに断続し
あの窓をその夜開き
この朝がくる前に閉じ
そのほんの一瞬前に僕と目を合わせ
元気でねと言ったか言わなかったかもうわすれて
ほんの細い指にも似た糸のような
たしかな摂氏を持つのかわからない
体積がなく面積を持たず
質量を持たず距離を持たずましてゼロ距離にもなく
空気を震わせることもなく思い知らされるものを
目に新しく指先に感触として
舌先に舌禍のように春先を嗅いで
鼓膜を裂くように某所で完全に消えて
それはこの街で
この場所で
あの時のことで
もう名前は忘れてしまって
で、また春
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