有/小川 葉
なにも無い
遠いところから
君はやってくる
名前を持たずに
やってくる
君の名前を考えている
夜十時で閉店した
ジャスコの二階フロアを
エスカレーターの下から
少し腰が引けたようにして
見上げている
どうしたの、と
僕が聞くと
どうもしないよ、と
長男は言う
きっとおばけが
買い物してるんだよ
冗談めかして微笑みかけると
おばけなんかいないよ
と、まんざらでもない顔をして
否定する
きっとおまえも
あんなところから来たんだな
薄くらい
誰もいない
二階フロアを
ふと無意識に見上げてしまうのは
なにも無い、が、懐かしいから
なのかな
もう一人生まれたら
決めてある名前がある
なにも無いところからやってきたから
名前は「有」
この世界にある
名前の無いものすべてを
今は「有」と呼ぶことにする
君が生まれるまで
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