人間のかたち/岡部淳太郎
 
こんなふうに
手足が生えそろって
二つの目と耳があり
呼吸も嚥下もでき
発語さえできる口があるのは
不思議なことだ
それが人間の
かたちとして当たり前に
認められているのも
不思議なことだ
それでも死ねば遺体を焼き
骨だけになったかたちを
あつめて葬る
そこまでしてもなおかつ
生きていた時の人間の
かたちを思い出して
偲んでは泣いたりするのも
不思議なことだ
たとえば
殺人事件があった現場などに
ここに一人が斃れていたとばかりに人間の
かたちが描いてある
そこにいたはずの一人は
すでに消えてあるのに
かたちだけが
のこっているのは
不思議なことだ
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