船/鈴木陽
 
、海鳴りを子守唄としながら、梯子の前で船員は手紙を書くだろう。船の中に張り巡らされた草の根を反響する痕跡としての言葉を、我々は改めて文章に書き起こさなければならない、そんな寂しさに船は駆られる。書き起こされた手紙は緩やかに木材へと溶け込み、そのまま船の中を配達される。そしてその文面が忘れ去られたころに、それは幽霊となって我々の前に現れてくる。幽霊は不可視であるけれども、我々は船から少しばかりの銀版を受け取って磨き、それを写真に残すことが出来る。それは、ヨードで処理され、カメラオブスクーラの中で感光された銀メッキの板であり、それをためつすがめつするうちに、光がちょうど上手い具合にあたると、その上にか
[次のページ]
戻る   Point(2)