春の悲劇/藪木二郎
 
として向かっている
 いつかパノラマ写真で観た
 パリの風景の幻像の中を

 犠牲者はこのまま朽ち果ててしまうのか
 腐敗ガスで腹が膨らみ
 その頂上に臍が飛び出し
 むくんだ頬に
 両の眼は福笑い
 腋と股から
 タンポポの種子が飛び立つ

 と
 いうのはやはりやり過ぎ
 遠く微かにパトカーのサイレンの音

 下品なジョークのベテラン刑事
 何かのマニアの鑑識課員
 まだ若い美貌の巡査も
 規制線を張りながら
 タンポポの辺りをチラチラチラ

 ああ
 どっちにしたって
 悲劇悲劇
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