ミズコに捧げ/石川和広
数々の試練と黙殺の流体とドシャ崩れの中をミズコはただ直線に歩いてきた。歩いてきた。眼をしかと開けと父のどこか暗い部屋からの通信を傍受しながら。直線とは全く架空の任意の点を結んだものだから、彼女は生きているのですらなかった。しかし架空の様々な点と線の崩壊を見ることだけが彼女の喜びであり、彼女にとって喜びだけが存在であり、彼女は、斜線を見るとその角度を図りながら微かにあえぎながら背中の汗の線を伝う静かな薫りをかぐ事はできず
父は一心に拝む。彼はネクタイを緩めミズコの快楽を仏壇の彼方の空に微かにかぎ口笛で泣いた
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