3席2夜(春雷)/まきび
 
 まだ寒い日の明け方。日が、万物への儀礼的な会釈を終えると、待ち構えていたように南風が私を捕まえた。南風は厳格な風らしく、風を信じてやまない者達に[詔]を伝える。聞きたくないと言っているのに、右の葉がその言葉を伝える。風はいつも偉そうだから嫌いよ。なにが「さあ、咲かせてごらんなさい。咲くことに意味はないけれど、あなたはそういう性分ですよ。」ですって。

 なんという、残酷な言葉だろう。咲きたくなくても、私は、吹き抜ける風達にくすぐられたら咲かざるを得ないというのに。今年は咲きたくないからと言って、許されはしないのでしょう。

 そろそろ私の腕の蕾が開き始めたある日の夕暮れのこと。足元に一匹
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