3席1夜(終話)/まきび
 
ごめん。私結婚したい。」
たかちゃんは今絶対電話口で目をひんむいて口をだらしなく開けている。いつも驚いた時するように。上半分のひきつった部分と下半分のゆるんだ部分のアンバランス、絶妙なお笑い芸人キメフェイスを思い出し、リルはニヤニヤと笑いだした。
「結婚したいって、本気?」
「マジマジ。」
「これは困ったな。」
「えっ?」
たかちゃんはよくくだらない冗談を真剣な様子で言う。
「また?」
いつものように笑いながら冗談やぶりをしようと思ったのだが、たかちゃんは取り合わない。不安と焦燥感が微弱な電磁波に乗って伝わってくる。
「君を今から連れ去りに行くよ。」
おいおい、いくらプロポーズ受けたからってそんなおさむいセリフ望んじゃいないって。リルはたかちゃんのここぞという時のセンスの無さをよく知っている。今から実家に挨拶でも行こうってことだろう。横目でよそ行きのワンピースを確認する。「了解。」と色気のない返事をして電話を切った。と同時にチャイムが鳴った。覗き穴を覗くと鬼と目があった。

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