帰り道/小川 葉
七才のとき
斎藤内科の待合室で
はじめて死について考えた
三歳のとき
母の背中におぶられて
私はいま三歳で
母におぶられているのだと
考えていた
高校の入学式の帰りに
サンエーというデパートの飲食店で
母とラーメンを食べながら
母とラーメンを食べているのだな
高校生になった私は
と考えていた
中学生の頃だったか
かにはんという蟹料理の店で
病院の帰りに蟹を食べた
私は病気ばかりしてる気がしていた
それは私だけではなかった
物置部屋で
自分とは何か
問い続けていた
嫁いできた母は
自分ではなくなっていくのは何故か
問い続けていたのだろう
家族が誰も知らない場所で
家族が誰も知らない場所を
私は知っている
風邪もひいていない母を
ときどき無性に
病院に連れていきたくなることがある
帰り道が楽しみで
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